ここでは、戦時中のプライヴェート写真を軍装の観点から楽しんでみたいと思っております。 
一枚の写真から・プライヴェート フォトを楽しもう!その2
   
 
はじめに
 
昨今のミリタリーイヴェントでは、戦時中のプライヴェート写真が売られている事があるが、戦車等の有名車両や有名人等が鮮明に写っていなければ意外に安く 入手出来る。実際殆どの写真は数百円といった値付けがされている。これらの写真はまず間違いなく未発表写真であり、市販されている写真集等では見る事が出 来ない写真である。しかし、キャプションが無い為、撮影時期や撮影場所等全くわからない事が多く、資料性は低いと言わざるを得ない。あとは、見る側がどの ように写真を見て、それらの写真をゴミ写真と判断するか、お宝写真と判断するかの問題である(笑)。今から紹介するのは軍装を中心にした写真の見方である が、これがまた私の様なコレクターにはなんとも楽しい世界なのである。
 
   
今回のお題
 
手榴弾の取り扱い訓練中の歩兵部隊と言う印象の一枚。
実は柄付き手榴弾のコンテンツを作る時にでも使おうかと思って購入したのだが・・・
原画は印画紙サイズで8、7cm×6、2cmと小さく、左の画像の1/3程度の大きさである。プライヴェートフォトの常としてキャプ ション等は一切無く、撮影時期も場所も全く判らない。早速スキャナで取り込み拡大してみると、またもや意外に面白そうな写真であることが分かってきたの で、単独でコンテンツを作ってみることにした。
肝心な部分をトリミングしてみると
かなり服装にばらつきがあるものの、最後列に立っている下士官が被っている規格帽から、1943年以降の写真と判断して良さそうだ。右 に立っている伍長は略帽を被っているので1943年の撮影かもしれない。座っている兵の野戦服も41年型と42年型の様で、国家鷲章も35年型と40年型 が混在している。兵達は1名を除いてヘルメットに偽装を施しており、その1名は上等兵の様だ。概して若い兵という感じでも無いので、内地の補充大隊あたり の訓練風景かもしれない。それでは、もう少し細かく観察してみよう。
最初に
 
これが、この写真を買った最大の理由、訓練用機材である。有刺鉄線等を除去する時に使うGestreckte Ladungが木製で作られているのが面白い。
また、写真右下にGeballte Ladung:収束手榴弾のダミーも置いてあるのに注意。更に注意して見ると、各兵が持っている柄付き手榴弾も全てダミーで、穴のあいた金属製弾頭を持つ タイプと、オール木製のタイプを持った兵がいるのが面白い。
 

 
REIBERT:ライベルトより
 
ライベルトは日本軍で言うところの”操典”で、各兵科毎に作られており、ドイツの歴史から軍装、軍隊生活・用語・号令から基本的兵器の 取り扱い・専門兵科の項などからなっている。この中の、各兵科共通項目の中で24年型柄付き手榴弾にもページがさかれていて、画像の様にGeballte Ladung:収束手榴弾の解説もされている。収束手榴弾は工兵の様な専門家で無くとも扱える応急的な爆破兵器で、1本の柄付き手榴弾に6コの手榴弾の弾 頭をハリガネ等でくくりつけた物で、センターの手榴弾が廻りの弾頭を誘爆させると言う簡単な仕組みになっており、トーチカ攻撃や対戦車戦闘等に使用され た。
 

 
REIBERT:ライベルトより
 
これも工兵のいない時の応急的な爆破兵器の一種。
こちらは有刺鉄線等を除去する時に使うGestreckte Ladung:台付き爆薬で、木製の板等に15cm間隔で手榴弾の弾頭をくくりつけ、収束手榴弾同様に誘爆させると言う物である。
まず気になったのが・・・
 
全員が手榴弾を持っている事以外に、小銃に銃剣を着剣している事と、ヘルメットに偽装を施している事だ。これは、この時の訓練が単に手 榴弾に関する物だけでは無かった事を示唆している様に思う。右端の兵がベルトにさしている訓練用手榴弾の弾頭に、ダミーである事を示す穴があけられている のに注意。左端の兵の野戦服に付けられている35年型国家鷲章と、隣の兵の国家鷲章の視認性の違いも興味深い。
うん?
 
真ん中に座っている上等兵はヘルメットに偽装を施していないだけでは無く、なんとM16/18スチールヘルメットを被っている!。 1943年以降にこんなヘルメットを被っている兵って・・・しかも、全員弾薬盒は片方しか付けていないし・・・。(一般的な歩兵は通常弾薬盒を左右ペアで 支給されており、対戦車自走砲に乗っている戦車猟兵などは片方支給の場合があるが、この写真からでは兵科が特定出来ない。)まさか飛行機の無い空軍整備兵 や、艦船の無い海軍の水兵が転職したとか・・・(高橋慶史さん好みの写真なのだろうか?)
教官?それとも分隊長?
 
写真左端に立っている兵は、襟のトレッセと肩章から伍長の様である。この中では唯一規格帽を被っている。写真の右端に立っているのは伍 長勤務上等兵だが、こちらはまだ略帽を被っている。彼ら二人がスチールヘルメットを被っていないのは、おそらく訓練を指導指揮する立場にあるからだと思う が、伍長勤務上等兵は銀色の歩兵突撃章と銀色戦傷章を付けており、歩兵科の可能性が高いと思われる。
それにしても
 
手前で横になっている兵のジャックブーツは初期の長いタイプの様で、左端の兵のジャックブーツは1939年以降の丈が短くなったジャッ クブーツの様だ。またこの左端の兵は41年型野戦服を着ているが、胸の国家鷲章は35年型で、肩章の兵科色より白く見えるのは気のせいだろうか?。ゴール デンイエローに見えなくも無いが、偵察であればやはり弾薬盒はペアで欲しいところだ・・・(笑)。誰か彼らの正体が判る方は是非とも御教示願いたい。左端 とその隣の兵が持っている訓練用手榴弾は弾頭も木製で作られたタイプなので、弾頭に穴があけられていない。
参 考 資 料
以下年代特定の参考になる徽章類
 

 
陸軍伍長勤務上等兵階級袖章
 
ダークグリーンの台布に、アルミシルバーのトレッセを縫いつけた1936年型階級袖章。規定では1936年から1940年まで使用さ れ、1940年からは、襟のカラーをダークグリーンからフィールドグレーに変更された事に伴い、袖章の台布もフィールドグレーに変更した物が作られたが、 実際には在庫が使用され続けた為、1942年頃迄に生産された野戦服には付けられていたケースがある。また、古参兵の多くは野戦服にも視認性の良い36年 型を好んで使用していた。
 

 
陸軍上等兵階級袖章
 
フィールドグレーの台布(野戦服と共生地)にマウスグレーのトレッセを縫いつけた1942年型階級袖章。
戦局の激化に伴い、アルミシルバーのトレッセの迷彩効果が問題になり、下士官の襟に付けるトレッセと袖章のトレッセもマウスグレーの レーヨン製の物に変更された。グレーのトレッセ自体は1940年から生産されており、綿の台布に付けられた物は生産されていたが、これらの徽章類に関して はまた別の機会に紹介する事にする。
  
  
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08.May.2000 公開
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