今回は懐中電灯のバリエーションと、その運用法等を紹介する。懐中電灯には非常に多くの バリエーションがあり、その全貌を紹介する事は殆ど不可能ではあるが、今回紹介出来なかったバリエーションに関しても機会をみて紹介したいと思っている。 本コンテンツを制作するにあたり、コレクションを取材させて下さったPucki氏と、ラ イベルトのドイツ語の翻訳をして下さったクラウゼの山下氏に、この場で感謝の意を表します。 |
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懐中電灯のバリエーション。 左から”WIF SIGNAL”、2番目と3番目は”DAIMON"、一番右側が”ZEILER”の懐中電灯。 それぞれ4.5Vの乾電池を使用する構造で、カラーフィルターを内蔵しており、暗闇で物 を照らす意外に合図等にも使用出来る様に作られている。 右から1番目と3番目はPucki氏のコレクション |
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”WIF SIGNAL”の1136型懐中電灯。 この懐中電灯については、後で細かく紹介するが、クロアチアの外国人義勇山岳部隊下士官 が、肩章のボタンから吊り下げている写真が有名である。 フィルターの出し入れを、回転式ハンドルで行なう構造や、ブルーのフィルターが入れられ たスリット付きフード等を備えているのが特徴である。 |
Pucki'sコレクション |
有名な”DAIMON"の懐中電灯。 ”DAIMON"は、メーカー名であるが、同社製の懐中電灯はかなりのバリエーションが 確認されている。 残念ながら生産年等は判らないので、具体的な説明が出来ないが、フード付きの物の方が改 良型であると思われる。 |
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これも”DAIMON"の懐中電灯であるが、このタイプにはフードカバーは付けられてい ない。 カラーフィルターは前面に設けられたレバーを上下にスライドされる事で操作する。 左のレバーを下すと緑、真中はブルー、右のレバーで赤のフィルターを出す事が出来る。 尚、この懐中電灯は下面にレンズを付けたスリットがあり、吊り下げて歩く時には、足元を 照らす事が出来る様に作られている。 |
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WIF SIGNAL 1136型の外観。 この懐中電灯は、右手で操作するスイッチでモールス信号も送れる様に作られている。 |
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裏側には、ボタンホールの付けられた革製のタブが上下に付けられている。 画像では左側が上である。 |
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懐中電灯の蓋を開けると、その殆どが電池ボックスのスペースである。 カラーフィルターは蓋の内部に内蔵されており、分解は通常行なわない作りとなっている。 懐中電灯に使う乾電池は単3電池を並列に3個並べた物を包んだ様な大きさで4.5Vであ るが、日本の規格には無いので、輸入品を購入するか、電池ボックスを改造しないと使用出来ない。 |
反射鏡部、スイッチ部のクローズアップ。 カラーフィルター部を除くと極めて簡単な構造で作られているのがわかる。 前述の乾電池には金属板製の接点が2本付けられており、短い方は折り曲げた状態で反射鏡 の下の接点に、もう片方は伸ばした状態でスイッチ部の接点に触れるようセットする。 |
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このタイプの懐中電灯には、画像の様な刻印がプレスされている。 ”HEERESEIGENTUM”とは、陸軍所有物と言う意味で、これが私費購入品では 無く、陸軍から貸与される官給品であった事を示していると思われる。 官給と一口に言っても、ドイツ軍の場合は貸与と、給料から支払が必要な装備もあった。 貸与の場合は定められた期間が過ぎると、返却する事が原則となっていた。 |
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この懐中電灯は、陸軍の下士官学校で教材として使われていた物で、蓋の裏側と本体の内部 にスタンプが押されている。 通常懐中電灯は個人装備で、この様なスタンプが押されている訳では無い。 蓋の裏側の4本のリブは補強とスライド式カラーフィルターのガイドレールを兼ねている。 |
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本体内部に押されているスタンプのクローズアップ。 上段には”Heeresunteroffiziersschule:陸軍下士官学校” が、下段には”1.Lehrgangeabteilung:第一教務係”がスタンプされている。 |
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内蔵式カラーフィルターは、正面のハンドルを回転させる事で出し入れ出来る様に作られて いる。 このWIF SIGNALの場合はフードカバーにブルーのフィルターが付けられている為、内蔵されたフィルターは赤と緑の2色のみとなっている。 ハンドルは時計と反対まわりに回すと赤いフィルターを、時計まわりに回すと緑のフィル ターが出てくる。 画像はハンドルを回して赤いフィルターを出している状態。 |
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緑のフィルターを出した状態。 これらのカラーフィルターは、夜間の戦闘時に様々な合図として使われた。 信号弾は他の部隊間、もしくは距離の離れた友軍との連絡用に、懐中電灯は主に部隊内の連 絡に使われたと思われる。具体的な合図に関しては、陸軍の操典REIBERT:ライベルトに記載されていたので、抜粋して下に掲載する。 |
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折角陸軍下士官学校の教材に使われていた懐中電灯を紹介したので、実際にどの様に使われ ていたかを紹介する。 画像は陸軍の操典:ライベルトからの抜粋である。 1.白(フィルター無し) :ココは通行可能!。もしくは ココにいる!。もしくは 集合!。もしくは 異常なし!。 2.白を直線的に動かす:敵の気配あり!。 3.赤 :敵襲 灯を消せ!。 4.緑 :短射撃!。もしくは 撃ち方やめ!。もしくは 武装して前進!。 |
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当時の写真を見ると、懐中電灯は肩章や胸、胸ポケットのボタンに付けられていた。懐中電 灯に付けられている上下の革タブのボタンホールは、40年型野戦服までの5つボタンの野戦服のボタンの間隔に合わせてあったので、写真の様に上下をしっか りと固定する事が出来た。41年型以降の野戦服のボタンの間隔は狭くなった為、この様に上下をしっかり固定する事は出来なくなった。 |
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これは肩章のボタンに付けた状態。この様に、懐中電灯のフードカバーを閉じて吊り下げる と、足元のみを照らす事が出来、前方を確認したい場合にはフードを上げれば前方を照らす事も出来た。このタイプの懐中電灯は、フードカバーにブルーのカ ラーフィルターが付けられたスリットが設けられているが、実際に夜間に点灯してみると、意外に至近距離は照らし、少し離れると目立たない。また、足元はネ コの目の様な形に照らし出される。尚、操作面では左肩に吊った方が操作しやすい様にも思えるが、写真では多くの兵士が右肩から吊り下げている。やはり心臓 側に吊るのはリスクが高いからだろうか。 |
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