このページでは、ドイツ山岳部隊の登山靴を紹介します。
   
はじめに
 
今回は山岳部隊の登山靴を紹介する。当時の写真を見ると私費購入の靴を履いている者も結 構いた様で、様々なバリエーションが確認出来るが、今回は制式採用の官給タイプの登山靴に拘って紹介したい。
本コンテンツを制作するにあたり、貴重なアイテムを貸して下さった山岳部隊コレクターの 堀内氏と、フィンランドのパローラ博物館の画像を提供して下さったKI-100さんに、この場で感謝の意を表します。
    
 

 
 
登山靴
  
画像左は標準的官給タイプの登山靴である。
戦前のドイツ陸軍における山岳部隊は、その想定される戦場の過酷さから、様々な装備品の 実験配備の場としての役割も果たしていた。
山岳部隊で通用すれば、他の兵科での使用に問題は少ないと言う事であったのであろう。
その様な中で、山岳部隊には独自の装備も数多く採用されており、登山靴もその代表的な物 に挙げられるだろう。
 
 

 
登山靴
  
登山靴は通常の「編上靴」に比べると靴底が厚く、靴底の金具も異なったタイプの物が使われているのが大きな特徴である。
この金具は岩場等でのグリップを確保すると同時に、革製で作られた靴底の破損を防ぐ役割 も持っており、当時の通常の登山靴に多くの共通点を見出す事が出来る。
 
 

 
 
登山靴
 
これは登山靴を後ろから見た画像であるが、踵の下部が広がっている事、足首の部分には フィールドグレーの布テープが挟み込まれている事がわかるだろうか。
 
この布製テープは登山靴が通常の編上靴の様に一枚革では無く、二枚合わせで作られている 為に合わせ目の解れを防ぐ目的と、ズボンの裾を痛めにくくするための物と思われる。
 
登山靴はスキー靴として使用される場合もあるが、その様な場合には踵にスキーの金具用の 溝を掘り込んで使用する。
 
 

 
 
登山靴

この登山靴では、靴紐は下から6個のフック金具と、一番上のホールで締め付ける作 りになっている。
これは下の方をホールにすると、雪中行動中等に靴の中に水が入る可能性が高くなる為で、 靴の履き易さを重視して、下の方をホールにしている事がある編上靴とは対照的である。
また、側面形状を見てわかる様に登山靴はつま先部の高さも高めに作ってあり、厚めの靴下 が履ける様になっている。
 

 

 
靴の裏側
 
通常の編上靴と登山靴の靴底と底に打たれている金具や鋲の違い。
 
画像上が編上靴で下が登山靴であるが、登山靴の方は靴底の周囲に金具が付けられているの が特徴である。
また、鋲自体は編上靴の物よりも小さいが密に打ち込まれており、岩場等で靴底が痛みにく い工夫が施されている。
 
靴底の金具と鋲
 
登山靴の靴底も他の靴同様に革の積層で作られているが、登山では靴底を岩場の隙間等に差 し込んだり、斜面に足場を作る時に酷使されるので、通常の編上靴や行軍靴等では使われていない補強金具が周囲に付けられている。
画像は左足用の方であるが、つま先に打ち込まれている金具は靴底から打ち、靴底を貫通し た足の部分を下方に折り曲げてある。
また、その少し下の金具は下から打ち込み、更に上方より釘で固定されている。

 
靴底の金具等
 
この画像は上の画像を側面から見た状態。
 
つま先及び側面の補強金具の足が、靴底を貫通して下方に折り曲げられている様子や、つま 先から3番目に写っている金具が、上方より釘で固定されているのが良くわかるだろう。
 

 
 
靴底の金具と鋲
 
これは、土踏まずから踵の部分を写した画像であるが、土踏まずの部分は編上靴同様鋲は打 たれていない。
ただし編上靴と異なる点としては、靴底全体が厚くなっているので、周囲には他の部分同様 補強金具が付けられている。
踵は下の画像の様に、周囲が張り出した形状に作られていて、その周囲にも細かく補強金具 が付けられている。
 

 
靴底の金具と鋲
 
踵は画像の様に厚い皮の積層で作られている。
 
画像の一番下の層は編上靴の様な馬蹄形金具ではなく、多数の補強金具が取りつけられてい る。
この補強金具は単に下から打ち込むだけでは無く、表側の薄い鉄板をかしめる様に叩き込ん でしっかりと踵を挟んでいる。

 
靴底の金具と鋲
 
靴底の全周に付けられている補強金具は、打ち込む足の部分が釘と言うよりは、楔の様な形 状になっていて、根元は通常の鋲金具より太くしっかりとした物になっている。
 
通常の鋲は使用しているうちに抜け落ちる事がままあるが、補強金具は上からも挟み込むよ うにかしめてあるので、下側が極端に磨耗しない限り滅多な事では脱落する事が無い。
内装
 
登山靴の内装は編上靴よりも防寒性能や、防水性能等が要求される為、2枚の革を合わせて作られている。
 
正面のタブも両サイドと一体になる様にマチが取ってあり、雪中等を歩いても、内部に水が 侵入しにくい構造になっている。
 
また、靴を履く時の利便性を考慮して、足首の後ろ側には布製テープが縫い付けられてい る。
刻印
 
この靴の外側の内装にはメーカー、製造年、サイズ等が打刻されている。
 
上の段がメーカー名と製造年で、BALLY 41とあり、BALLY社で1941年に製造された事がわかる。
 
下段には27・5・II・88(後ろの8は不鮮明でちょっと?)とサイズ(27cm)等 が打刻されている。
   
パローラ博物館の展示から
  
パローラ博物館所蔵の登山靴
 
写真はKI-100さんがフィンランドのパローラ博物館で撮影された物。
 
これも標準的な官給タイプの登山靴である。
靴自体の作りは上で紹介した物とほとんど同じであるが、靴底に使用されている金具・鋲等 の細部に違いがある。
靴底の金具と鋲
 
この登山靴でも、つま先の金具は靴底から打ち込み、上に出た足の部分を下方に折り曲げ、靴底の剥れを抑える役割も果たしている。
 
また、画像の中央部の金具は上から細い釘で固定されているが、この金具は靴のサイズで数が異なる様である。
靴底の金具と鋲
 
踵の前面に大きな鋲が打たれているが、これも登山靴独特の鋲で、通常の編上靴には使用されていない。
 
また、この登山靴の踵には上で紹介した靴よりも大きな鋲が打ち付けられているのがわかる。
靴底の鋲
 
これは当資料館所蔵のホブネイル:靴底の鋲であるが、左側が通常の編上靴用の物で、右側が登山靴の踵に使われている鋲である。
 
編上靴用の物は、滑り止め効果もあるが主に靴底の革が磨耗しない事を目的としていたのに対し、登山靴用の鋲は足も長く、明らかに岩場等 でのグリップを目的としていた感がある。
  
   
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02.Oct.2001 公開
  
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