このページではドイツ軍の1910年型飯盒を紹介します。
   
 
はじめに

本コンテンツでは、第二次世界大戦初期のドイツ軍や武装親衛隊で、1931年型飯盒と共に使用されていた、1910年型飯盒: Kochgeschirr 1910を紹介する。
1910年型飯盒は、その採用年でも分かるように、第一次世界大戦前から使用された飯盒で、1931年型飯盒が導入されるまでの期間が長かった事もあり、各パーツの材質や塗装色のバリエーションは少なくない。

1931年型飯盒も、戦争が始まると各パーツをアルミから鉄に変更したり、飯盒そのものが鉄製に変更、更には琺瑯引きの物等が生産されたが、この様な仕様変更は第一次世界大戦時の1910年型飯盒で既に試みられた変更であった。

本コンテンツを制作するにあたり、貴重なアイテムを取材させて下さった堀内氏に、この場であらためて感謝の意を表します

   
1910年型飯盒
  
 

 
 
1910年型飯盒:Kochgeschirr 1910

1930年代前半に、ドイツ軍は歩兵装備を一新しており、新型の雑嚢、水筒、飯盒等を採用している。
しかし、実際には再軍備に伴う国防軍の大増員もあって、全ての兵員に新型装備を供給するには年単位の時間を要したため、飯盒を含む装備の多くは、新型と旧型が混在して使用され続けた。

1910年型飯盒は、1935年にドイツ国防軍となった後のHeer:陸軍の他にも、SS-VT:SS戦闘部隊を始め、H.J.:ヒトラーユーゲント、S.A.:突撃隊や、N.S.K.K.:国家社会主義自動車軍団等で使用されていた事が知られている。

1910年型飯盒の最大の特徴は、その大きさであろう。31年型飯盒と比べると下表の様に背が高く容量も多い。

1910年型飯盒と1931年型飯盒のサイズ比較 
  1910年型飯盒  1931年型飯盒 
全高  185mm 150mm
巾 (最大)  160mm (185mm) 160mm (185mm)
 95mm  95mm
 容量(本体)  2200cc 1600cc 
  容量(蓋)  750cc 500cc






 
 

1910年型飯盒:Kochgeschirr 1910

ドイツ軍の場合は飯盒と言っても米を炊く訳では無く、中身を温める事に使える野戦用食器として使用されていた。
1910年型飯盒は写真の様に携行ハンドルの付いた本体と、折畳式の柄が付いた蓋がセットになっていて、本体は前述の様に中身を温める事が出来る食器、また蓋の方はフライパンにもなる取手付きの皿として作られていた。

また、この1910年型飯盒の本体には、画像左の様に4段階の目盛がプレスされているが、これは500ccの目盛で、2リッターまでの計量を行う事が出来る。

写真の飯盒は、本体のキャリングハンドル取り付け部が鉄製であるが、このパーツがアルミダイキャスト製の物もある。しかし、この飯盒も含め1910年型飯盒には製造年等を示す打刻の無い物が多く、どの時期にどの様な物が作られていたかを明確に説明する事は難しい。

また、この飯盒本体には、”Essbesteck : 野戦用食器(折りたたみ式スプーン&フォーク)”を収納するギミックが備えられている。

 

取手付き蓋

飯盒の蓋に付けられている柄とそのマウント部は、飯盒を携行するのに使用する飯盒用ストラップを通す為のループや、留め具が付けられている。

1910年型飯盒の場合、飯盒用ストラップが縦横両方に通せる様に作られているのが特徴的である。


 

ディテール

前述の様に、この飯盒本体には”Essbesteck : 野戦用食器(折りたたみ式スプーン&フォーク)を収納するギミックが備えられている。(1910年型飯盒の全てにこのギミックが備えられている訳では無い)

画像は、折りたたみ式のスプーン&フォーク受け部のクローズアップで、アルミ製のパーツが本体にリベット留めで取り付けられている。
 
   
ディテール
 
折りたたみ式スプーン&フォークと受け部の関係を示す。

スプーンの先端が、受け部と飯盒本体の縁の間に入る事で、しっかりと固定される様に作られている。
 
ディテール

上の画像と反対側には、画像の様な凹が設けられている。

この凹は、スプーン&フォークの柄を押さえるストッパーの役割と、受けの役割を兼ねている。

この関係については、文章で説明するよりも、収納状態の写真を見たら一目瞭然なので、そちらを参照されたい。
 
   
ディテール

このギミック、実は通常の折りたたみ式スプーン&フォークでは、上手く固定する事が出来ない。

このギミックに対応した折りたたみ式スプーン&フォークは、画像の様に柄の先端部が折り曲げられていて、飯盒本体に設けられた凹がストッパーと受け具の役割を果たし、ピッタリと収まる様に作られている。
 
 

収納法

収納法は至って簡単で、スプーンの先を飯盒の受け金具に乗せ、そのままスプーン&フォークの柄の部分をカチッと音がするまで押し下げる。
これで、収納されたスプーン&フォークを持って、振った位では飯盒本体が外れる事が無い位、しっかりと固定される。


 

収納された折りたたみ式スプーン&フォーク

折りたたみ式スプーン&フォークは、この様に固定される。
因みに、今回使用したフォーク&スプーンは、RZM:党需品管理局 M6/33/38の刻印から1938年製でN.S党の組織向けに納入された物である事が分かるが、同じく1938年製でRZMの刻印が打刻された1910年型飯盒には、このスプーン&フォーク収納のギミックは備えられていない物が複数確認されている。
同一年でも、納入された組織によってギミックの有無を使い分けしていたのか、はたまた1938年に仕様変更があってギミックの有無が混在するのかは不明である。


バリエーション  (RZM M6/1/38)



取材協力 堀内氏                          




取材協力 堀内氏                          

1910年型飯盒:Kochgeschirr 1910

フィールドグレーの塗装が良く残っているこの飯盒には、RZM:党需品管理局 M6/1/38の刻印がある。
まさに”収納された折りたたみ式スプーン&フォーク”のキャプションで書いた、1938年製でN.S.党に納入された1910年型飯盒で、スプーン&フォークの収納ギミックの無いタイプの例である。
この飯盒は、本体の携行ハンドル基部がアルミダイキャスト製であるが、上で紹介した飯盒より生産年が早いか否かは不明である。31年型飯盒であれば、こちらの作りが初期型となるが、1910年型飯盒に関しては第一次世界大戦を挟んで生産が続けられたため、戦時中よりも戦後の方が材質が良い可能性がある事。また、スチールヘルメットの例にならうと、塗装色がフィールドグレーの方が後から採用された経緯があるからである。





ディティール

上は、蓋の取っ手基部と、飯盒本体の刻印のクローズアップである。
M6/1/38の下にRZMのロゴマークが打刻されているが、”M6はアルミニウム製品”、”1がメーカーコード”で、”38が製造年”を示している。RZMは、Reichszeugmeisterei :党需品管理局の略である。



1910年型飯盒の携行法



Soldatenlexikon:兵隊百科より

この”Soldatenlexikon:兵隊百科”は、ドイツが再軍備を宣言した1935年に、これから兵役に就く者を対象に発行されたガイドブックで、軍隊生活で必要となる様々な知識を、入隊前に予習しておくために編纂された物である。


上の画像は野戦装備の図解ページであるが、左ページの図の上には、”Feldanzug, ohne Gasmaske (Zeltbahn nur zum Parade Anzug !) : ガスマスクを除いた野戦装備 (ツェルトバーンはパレード装備のみ)”、”Vorderansicht : 正面外観”
図の下には”mit Tornister : 背嚢装着”とある。

この図では、1910年型飯盒が背嚢にストラップで装着されているが、34年型背嚢から飯盒(31年型)は背嚢内にある飯盒袋に収納する事になっており、実際この本の背嚢の解説ページでは、31年型飯盒が34年型背嚢に収納されている図が掲載されている。
この様な矛盾は、装備類変更時の過渡期を示すものと思われるが、1931年型ツェルトバーンに関しては、1932年に導入されたスプリンター迷彩が描かれているのが興味深い。




プライベート写真より

この写真は1940年に撮影された、兵士達の食事風景である。テーブル上に置かれた3つの飯盒の内、手前の1つが1931年型で、奥の2つは1910年型である。1931年型飯盒が導入されて9年経っても、1910年型飯盒が使用され続けていた事が興味深い。

通常、被服や徽章・装備類に変更が加えられた場合には、旧型の使用期限を定めるケースが多く、それ以降は新型を使用する事とされていた。この飯盒に関しては旧型の使用期限を定めたものの、更新が間に合わずに使用され続けたのか、そもそも使用期限が定められていなかったのか、規定はあったが守られていなかったのかは不明である。


おわりに

1910年型飯盒は、製造メーカーや製造年の打刻が無い物も多く、時系列でどの様なバリエーションがあったかを紹介する事が出来なかったが、本コンテンツで紹介していないバリエーションに関しては、その幾つかがエーデルマン氏のサイト”東部戦線的泥沼日記”で紹介されているので、興味のある方はそちらを参照されたい。

    
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20.Jul.2013 公開
  
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