はじめに 今回のコンテンツを制作するにあたり、貴重なアイテムの取材をさせて下 さった、クラウゼ の山下氏に感謝の意を表します。 |
取材協力:KLAUSE
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騎士鉄十字章:Ritterkreuz des Eiserne kreuzes 騎士 鉄十字章は、1939年9月1日にヘルマン・ゲーリングに よって制定された、4段階あった鉄十字 章の一つで、ランクは上位から、大鉄十字章、騎士鉄十字章、一級鉄十字章、二級鉄十字章の順になっていた。ただし、大鉄十字章に関しては第二次戦世界大戦 中、制定者のヘルマン・ゲーリングしか授章していないので、一般将兵にとっては事実上最も名誉ある勲章で あったと言えるだろう。 騎士鉄十字章は、襟首(喉元)に画像のような黒白赤3色のリボンで吊り下げる形で佩用された。 画像のリボンは、授与された時にセットで付いている物ではなく、佩用する際に襟の後ろで結べるように、両端に細いリボンを縫い付けたタイプである。 |
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騎士鉄十字章のケース外箱 これは、勲章ケースを収納するボール紙製の外箱である。 この外箱には、”騎士鉄十字章:Ritterkreuz des Eiserne kreuzes”の文字と、メーカー名”Klein & Quenzer A.-G.”とメーカー所在地の”Oberstein”がプリントされている。 |
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騎士鉄十字章のケース 騎士鉄十字章のケースは、勲章本体とリボンを別に収納するため、このように縦長に作られていた。 ケースの外観は無地の物が多いが、このケースの蓋には、画像のようにLDO:ドイツ勲章協会の略の組文字が押されている。これは、騎士十字章の授章者が、 私費で追加購入する際の物である。 サイズは150mm×75mm×26mm。 |
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ケースの中の騎士鉄十字章
ケースの内装は、蓋の裏側が白のサテン、本体側は黒のベルベットが、貼られている。 ケースには、騎士鉄十字章とリボンが収納できるように作られている。 画像では騎士十字章を入れているが、上の一段下がった部分に、折りたたんだリボンが入れられる。 リボンは上の画像と同じく、45mm幅で、長さは38cmあり、両端は切り放しの状態であった。 この騎士鉄十字章は、フレーム内側の艶消し白色酸化仕上げがほぼ残存していて、極め てコンディションが良い。 |
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騎士鉄 十字章 騎士鉄十字章 (1939)の表面、中央にはスワスチカが配されていて、下にある1939は再制定された年号を表している。 騎士鉄十字章は、他のメダル類同様、勲章メーカー毎に型を作っていたため、大まかなサイズは同じで、スワスチカがモールドさ れた鉄製のコアを、銀合金製のフレームで挟み込んで作られた事は共通しているが、詳細に観察すると様々な相違点が発見できる。 画像の騎士十字章も、中央のスワスチカとフレームの取り合いにはっきりと違いがある。 また、ドイツ国内では、現在公共の場でスワスチカを掲示する事が禁止されているため、スワスチカの部分にシール等を貼り付けて販売しているケースがあり、 この部分が錆びてしまう原因の一つになっている・・・。 |
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騎士鉄十字章には、銀合金製フレームの銀含有率を表す”800”(銀の含有率: 800/1000)の刻印、勲章メーカー番号の他、LDOコードが、裏面の吊り下げリング金具の下のフレーム部や、ネックリボン用のジョイントループに打 刻されている場合がある。(無刻印の騎士鉄十字章も多く存在する) この画像は上の右側の騎士十字章の裏面であるが、フレームとジョイントループの両方に、銀含有率刻印の”800”が打刻されている。 |
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騎士鉄十字章
騎士鉄十字章の授与にあたっては、陸・海・空軍の推薦を受け、総統兼 国防軍最高司令官であった、アドルフ・ヒトラー自身が決定し、その条件は「敵に対し、際だって勇敢な行動をした」事が絶対条件とされていた。 実際の授与は、ヒトラー自身からなされるケース
もあったが、一般的にはヒトラーの電報による承認を受け、所属部隊の司令官等が代理で授与するケースが多かった。この授与式の際には、騎士十字章のメダル
と共に、予備勲記:VorläufigesBesitzzeugnis
(他の勲記・章記のように、紙に印刷された授与を告
げる文書)が添えられた。 一方、正式な勲記:
Urkunde は羊皮紙で作られており、総統兼
国防軍最高司令官であったアドルフ・ヒトラー直筆の署名が入っていた。 ただし、この手の込んだ作りの
勲記は、戦争の激化と共に、騎士十字章の受章者が増えた事もあり、一部の者にしか授けられなかったと言われている。 |
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騎士鉄十字章 騎士鉄十字章の受章者数は7.313名、その内ドイツ軍人の授章者数は6.996人(陸軍
4.524人、海軍 318人、空軍 1.716人、武装SS
438人)で、約1.500万人いたと言われる従軍者数と比較すると、概ね2.150人に一人が授章した計算になる。
また、一級鉄十字章などは、戦争末期に授与基準 が引き下げられたと言われているが、騎士鉄十字章に関しては、最後まで乱発されることは無かったと言われている。 騎士鉄十字章の授与基準であるが、空軍戦闘機パイロットの例でみると、撃墜機数 が基準となっており、戦争初期には20機、対ソ戦が始まり、東部戦線に於いては1941年9月には 30機、11月には40機、1942年8月には50機、1943年春には75機と引き上げられ、同年秋には100機に改められた。 一方、航空機の性能やパイロットの資質が高かった西部戦線での基準は上記と異なり、1941年秋以降撃墜機数が概ね40機に達すると授与されており、ドイ ツ本土に対する空襲が激化すると、本土防空部隊に対し、四発の重爆撃機を撃墜すれば3ポイント、撃破でも2ポイントが与えられ、合計が40ポイントに達す ると授与されるといったポイント制が導入された。 こうした基準は海軍の潜水艦艦長にもあり、撃沈した敵艦のトン数の合計が10万トンとされていた。 |
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裏 面上部中央の銀含有量刻印“800”のクローズアップ。 これは、前述の様にフレーム部の材質が、銀含有率が800/1000の合金製である事を示している。 |
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騎士十字章の受章者は、勲記を提示する事で、メダルやリボンの追加私費購入が出来た事は 既に記したが、そう言った受章者達のために、当時の装飾品メーカーや店は、各々のメーカー番号や、LDOコードを打刻したメダルを製造していた。 この写真のジョイントループには、銀含有量刻印“800”と共にメーカー番号の”65”が打刻されている。 この65は、外箱でも紹介した、ObersteinのKlein & Quenzer A.-G.製である事を示している。 |
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鉄製のコアが、ふっくらしたタイプの騎士鉄十字章。 騎士鉄十字章は、約7.000名の受章者に対 し、およそ20.000個以上は生産されたと言われているが、前線では受章者にメダルを供給しきれなかった状況もあり、受章者の中には二級鉄十字章を騎士鉄十字章の代用として、その 襟元に佩用した写真なども残っている。 このエピソードは、メダルはあくまでその受章者が、どのような勲功をた て、栄誉・栄典によくするに値する人物である事を、他者へアピールするための物であることを表して いると言えよう。 とにかく、受章者を確率でみるなら、戦争の全期間を通して2.150分の1と言う事は、15.000人規模の師団で、受章者は7名弱と なる。 受章イコール階級では無いので、多少無理と違和 感はあるが、敢えて現代の日本で例えるならば、従業員数15.000人規模の会社で、おそらく代表取締 役、あるいは執行役員以上の地位に就いている人のイメージに近いのかもしれない。 |
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写真は、上の騎士鉄十字章の裏面である。 裏面の写真でも、この騎士鉄十字章のアイアンコアが、フラットな板状では無い事が理解出来るだろう。 騎士鉄十字章を詳細に見ると、フレーム部のエッジのモールドや、吊り下げリングの形状と取り合い、アイアンコアのスワスチカや年号の文字のモールドなど、 細部の作りは様々で、メーカー毎に型があったと言われる当時の状況を、証明しているように感じる。 生産総数自体は、一般的な装備品と比べて僅かな物ではあるが、一般的な装備品同様に、各メーカーで細かい所に差異がある点において、いかにも当時のドイツ 製品と言う印象を受ける。 海外出版物の中には、騎士鉄十字章の生産メーカーは、数社に限られていたと言った、根拠の明示されていない記述もあるが、基本的にその様な法律でも示さぬ 限り、信用するに値しないだろう。 騎士鉄十字章のメダル自体、二級鉄十字章を作れれば、技術的には作れる物であり、少なくともLDO加入メーカーで、全ての基準に達していると認められてい るメーカーが、騎士鉄十字章を生産していなかったとする方が、むしろ不自然なのではないだろうか?。 |
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この騎士鉄十字章は、いわゆる官給タイプの一つで、フレームとジョイントリングに銀含有率を表す”800”の刻印があるだけで、製造メーカーは判らない。 前述のように、製造メーカー番号や、LDOコードの打刻された騎士鉄十字章は、概ね私費購入する受章者向けに生産された物である。 |
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これは、ケースの中の騎 士鉄十字章で紹介した物。 フレーム外 側の鏡面仕上げも美しく、内側のミリング部分には艶消し白色酸化仕上げがほぼ残っている。 アイアンコアに施された艶消し黒の塗装に剥がれやキズも無く、まさに製造当時の状態を彷彿とさせる。 |
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この騎士鉄十字章の裏面、吊り下げリングとの取り合い部には、フレームの銀含有率刻印と、製造メーカーを示すLDO コードが打刻されている。 したがって、この騎士鉄十字章は、受章者が私費で追加購入するために生産販売されていた物である。 佩用用リボン中央の、纒め縫い(まとめぬい)にも注意。 ここの縫い方も、手縫いとミシン縫いの違いがある他、ジョイントリングを通すループが設けられた、凝った作りの物もあった。 使用される糸は、通常白か黒の糸だったようである。 |
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銀含有率を表す”800”と、LDOコードのL/12の刻印。 L/12の刻印はBerlinの C.E. Junkers 社製である事を示している。 この騎士鉄十字章では、吊り下げリングがフレーム部にめり込んだ様な作りになっている。 下の同社製品と比べると、その違いが解るだろう。 |
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これも、L12の打刻がある騎士鉄十字章である。 ”800”の打刻位置が、上の画像と異なり、フレーム中央になっている。 また、同一メーカー製であっても、吊り下げリングとフレームの取り合いは異なった作りになっている。 このベルリンにあったC.E. Junkers:ユンカー社は、空襲で工場の一部が被災し、他のLDO加入 メーカーより勲章のパーツを購入して、生産を続けた時期があるとの説があるが、これがディティールの違いの原因だとすれば、組立工程でLDOコードを打刻 した事と、組立工程を担当した会社のコードが打刻されたと言う事になり、極めて興味深い。 |
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既に上で説明した様に、この騎士鉄十字章にも、銀含有率を表す”800”の刻印の他、 LDOコードのL/12が打刻されている。 L/12の刻印はBerlinの C.E. Junkers 社製である事を示している。 |
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佩用用リボン 佩用する際に襟の後ろで結べるように、両端に細 いリボンを縫い付けたタイプである。リボンの中央部は、ジョイントループが左右にずれないように、纒め縫い(まとめぬい)されている。細部に多少のバリ エーションがあるが、 この様に両端に細いリボンを付けた佩用用リボンは、騎士鉄十字章の付属品として別売りされていたので、現在でもこの状態でリボン単体が市場に出るケースが ある。 当時も、リボンが傷んでくると新品に替えるために、予備のリボンを用意していた受章者は少なくなかったと思われる。 |
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細いリボンを挟み込んで縫い付けた、佩用用リボン。 因みにこのリボンの場合、手縫いで仕上げられている。 |
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ミシンを使用して、細いリボンを縫い付けた例。 リボン本体の折り返しと、細いリボンを一緒に縫い合わせてあるのが合理的である。 |
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佩用用リボンのバリエーション この騎士鉄十字章の佩用用リボンには、細いリボンを利用して金属製のリングが縫い付けら れている。 服の脱ぎ着の度に、細いリボンで結ぶのは、あまり機能的では無かったため、この様な改造例は少なくない。 |
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ディティール 上の写真のリボンの裏側は、この様になっていて、金属製のリングは細いリボンを利用して 付けられている事が解る。 おそらく、服の襟に隠れるカラー部に、金属製のホックを縫い付けて、簡単に脱着できる様に工夫した物だろう。 |
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上の騎士鉄十字章の裏面
アイアンコアが若干錆びているが、全体的に雰囲気のある騎士鉄十字章である。 鉄錆は膨張するので、この様な状態のアイテムを入手した際には、日本は比較的湿度が高いので、保存には気をつけたい。 オリジナルの状態を保存するという意味では、鉱物製のオイルは塗装を痛める事があるので、浮き錆は綿棒などでそっと除去して、密閉出来るポリ袋等に、乾燥 剤と共に入れておくのが良いだろう・・・。 |
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この騎士鉄十字章には、銀含有率を表す”800”の刻印の他、勲章メーカー番号の”4” が打刻されている。 この”4”は、LüdenscheidのSteinhauer & Lück社を示す。 |
佩用用リボンのバリエーション |
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太めで高さのあるスワスチカが特徴的な官給タイプの騎士鉄十字章。 当然のことながら、メーカー刻印が無いので生産者は不明。 フレーム内側の 艶消し白色酸化仕上げは消失しているが、塗装も含めて全体的なコンディションは悪くない。 |
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裏面には、若干の錆が出ている他、大きなキズ等は無い。 |
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上の騎士鉄十字章を正面より見た状態。 今回紹介した騎士鉄十字章の中で、最もスワスチカの背が高く作られている。 また、騎士鉄十字章のジョイントループは、フレームと同じく銀含有合金で作られていて、比較的柔らかいため、騎士鉄十字章本体と脱着すると、写真の様に若 干歪む場合が多い。 このジョイントループのサイズは、太さ1.6mm、長さ:22mm、奥行8mmとなっている。 また、このジョイントループの切断面は、溶かしたような丸みを帯びているのが特徴である。 近年、ジョイントループのみが市場に出ているケースがあるが、銀含有率800の打刻があるにもかかわらず、妙に堅くて脱着しても全く歪まない物があると聞 くが、これは材質自体が異なるためでは無いかと思われるので、ネット等で購入する際には注意が必要だろう。 |
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この騎士鉄十字章の裏面。 アイアンコア表面は、上の写真でも分かるように、塗膜も比較的平滑な仕上げになっているが、裏面はこのように、若干ざらついた仕上げになっている。 表裏で仕上げが異なるのは、ここまで紹介してきた騎士鉄十字章には無い特徴である。 表面の制定年1939と、裏面の1813の文字を比較する限り、裏面の1813のモールドのエッジがシャープに見える。 これは、表面の塗装回数が裏面よりも多く、表面の塗膜が厚い事が理由ではないかと思われる。 また、この佩用用リボン中央も、纒め縫いされて いるが、ジョイントリングの高さと比べ、その絞り方が強いため、正面から見て細くなっている。 これは、このリボンが佩用用リボンとして売られていた物では無く、授与時のリボンから改造して作られた物のためだろう。 |
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この騎士鉄十字章と、リボン用ジョイントループには、各々銀含有率を表す”800” の刻印のみ打刻されている。 |
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ディティール 騎士鉄十字章は、アイアンコアを銀含有合金製のフレーム でサンドイッチして作られているが、こうして横から見るとフレームが銀蝋溶接されているのが解る。 鉄十字章と騎士鉄十字章の製造過程については、騎士鉄十字章のメーカーでもあったC.E. Junkers:ユンカー社の研究サイトに写真入りで紹介されているので、興味のある 方は そちらを参照されたい。 |
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正面より。 佩用用リボンの先端は、この様に折り返してあり、ボタン掛け用のループが縫い付けられている。 |
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裏面より。 ボタン掛け用のループは、リボンの折り返しに挟み込み、手縫いで仕上げてある。 |
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佩用用リボンと取付用ボタンの関係を示す。 ボタン掛け用ループは、少し華奢な素材で作れているが、リボン自体が襟とカラーに挟まれていて、過重の一部を負担しているようである。 |
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鉄十字章3種 左から、騎士鉄十字章・一 級鉄十字章・二 級鉄十字章。1939年9月1日制定 の鉄十字章4種の内、大鉄十字章を除く3種である。 メダル類は個体差があるので、絶対値では無いが、画像の鉄十字章のサイズは以下の通り。 騎士鉄十字章 縦 47.8mm 横 47.4mm 厚 4.8mm 一級鉄十字章 縦 44.2mm 横 44.3mm 厚 3mm 二級鉄十字章 縦 44.3mm 横 44.3mm 厚 4mm |
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3種類の鉄十字章
の
佩用位置
ライプシュタンダルテSSアドルフ・ヒトラー師団:L.SS.A.H.所属の歩兵科SS上級大隊指揮官(SS中佐):SS Obersturmbannführerの制服に、3種類の鉄十字章を着けた 状態を示す。 襟から提げているのが騎士鉄十字章、左胸ポケットには一級鉄 十字章、 第二ボタンのボタンホールに二 級鉄十字章のリボンが着けられている。 二級鉄十字章のリボンの下に見えるのは、東部戦線従軍記章のリボンである。 二級鉄十字章に関しては、メダルバーやリボンバーに加工して佩用する場合があり、写真の様にボタンホールに付けたリボンから、メダルを下げているケースも ある。 |
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上の画像の騎士鉄十字章をクローズアップ。 ドイツ軍の勲章・戦功章・名誉章類は、全て授与とそれに伴う栄誉・特権を認証する勲記・章記(所有証明証)とセットで授与される。 勲記・章記(所有証明証)があれば、メダル自体は追加で私費購入する事が出来た。 メダル類は、服に佩用することで、その佩用者がどのような勲功をたて、栄誉・栄典によくするに値する人物である事を、他者から認知出来るようにした物であ る。 |
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