ここでは、WW2のドイツ軍が使用したジェリカンを展示しています。
   
はじめに

ジェリカンは車両等の燃料缶のニックネームだが、軽量で携行性が良く、車載にも便 利で積み重ねる事が出来、生産性も良い文句無しの逸品である。
ジェリカンというと、アメリカ軍のイメージが強いかも知れないが、アメリカ軍は実はドイ ツ軍の燃料缶を見て、さらに大量生産向きに改良した物を開発して使用していた。(それまでは38リッターの小型ドラム缶を採用していた。)
更にイギリス軍の場合はまったくのフルコピーを制式採用しており、刻印を見ないと区別が 付かない。
ということで、ここでは元祖となったドイツ軍のジェリカンに付いて展示しているが、ジェ リカンにも補強リブの異なる初期型と、今回紹介する後期型があり、また、飲料水用と燃料用、SS用と国防軍用が区別して作られていた。(飲料水用は十字に 白線が描かれて容易に区別出来る様になっていた。)
それでは、数あるバリエーションの中からSS燃料用と国防軍燃料用の後期型を比べて見て みる事にする。

   
SS燃料用(後期型)
   
SS燃料用(後期型)ジェリカン

画像でも判るように、真ん中にSSの刻印が大きく入っている。
また、上に方に「Kraftstoff  20L」とあるが、「燃料用 20リッター」という意味である。
その下の段の「Feuergefaehrich」は「火気厳禁」という意味の刻印であ る。
また、下の方に「SANDRIK」とあるのはメーカー名を表す刻印である。

この様にSS用をはっきりと刻印してあるのは、戦記等でもあるように、国防軍と SSでは燃料等の補給系統が異なっていた為だと思われる。

このジェリカンは写真の様にパンツァーグラウで塗装されており、下地にプライマー を塗装した形跡は見られないが、プライマーを省略した末期の物かもしれない。

なお、この裏側の面には補強リブのみがプレスされており、刻印等他の情報は一切無 い。

両側面より

この様にジェリカンは2分割でプレスされた本体と、同じくプレスで作られた取っ手 及び口の部品を溶接で接合して作られていた。

また、本体は当時の溶接技術や強度、プレス部品の精度等の関係で、接合面は面で接 する様に設計されており、その部分が本体より出っ張らない様にセンター部は溝状になっている。

このジェリカンで見る限り、溶接技術はかなり高く、流石ドイツ製といった感じがす る。

ちなみに、大きさ等のデータを紹介すると

 高さ   : 46cm
 巾    : 34cm
 厚さ   : 16cm
 重量  : 5、2kg

上から

取っ手のパーツも鋼板プレス製で、やはり溶接で取り付けられており、本体の接合部 と干渉しない様に切り欠きがされているのがわかる。

下から

下から見ると、底面は写真の様に中央部が窪んでいて、積み重ねた時の安定性が良 く、また底辺の補強リブの役割も兼ねた作りになっている。

カムロック機構付き注入口

注入口はカム式のロック機構(アルミサッシのロックの様な物)が付けられており、 簡単に開け閉めが出来、またしっかりと密閉出来る様に出来ている。

操作は簡単で、レバーを上に持ち上げれば、蓋を開ける事が出来る。
また、閉め時は反対にレバーを下げれば蓋を密閉する事が出来るが、カムの部分が先細りに 作ってあるので、レバーを下げて行くと、徐々に密閉度が高くなるように設計されている。

取っ手

取っ手取付部分が、本体接合部に干渉しないように切り欠きがあるのがはっきり判 る。

また、この角度から見ると、取っ手が鋼製パイプでは無く、一枚の鋼板をプレスして 作られた物である事がはっきり確認出来る。

取っ手取付部の溶接跡等はプラモデラーの方達にも参考になる画像だろう。

注入口

写真左:ロック状態

写真右:オープンの状態

「蓋」はオープン状態でホールド出来る様になっていて給油の為に「ジェリカン」を 傾けても蓋が勝手に閉まらない様になっている。

カムロック機構付き注入口

蓋を開けて中を見ると、写真の様に平たいパイプ状の物が付けられている。
これは燃料を注ぐ時に空気を缶の中に入れる為の物で、素早く確実に燃料を給油する為の機 構である。

また、内部は写真の様に赤い樹脂コーティングが施されていて、アメリカ軍のジェリ カンのメッキ仕上げより耐久性が高かった。

蓋の内側には、ゴム製のパッキンが入れられていて、カムロックを完全に閉めると、 確実に密閉出来る様に作られている。

蓋の蝶番部分を見ると、蓋側が楕円形になっていて、これが給油時に蓋が勝手に閉ま らないホルダーの役割をはたしている。
極めて簡単で確実な方法である。

   
国防軍燃料用(後期型)
   
国防軍燃料用(後期型)ジェリカン

このジェリカンも刻印でわかるように燃料用の物である。
さらにこれには製造年を表す1943という刻印があり、メーカーコードdwcが真ん中 に、その下には115という刻印と、一番下に「国防軍」を表す「Wehrmacht」の刻印がプレスされている。

塗装に関しては、刻印の部分に白が入っているが、これは当時の塗装では無く、本体 塗装同様に後から塗られた物の様である。

塗装の剥がれた部分を良く観察すると、錆止めプライマーの上にパンツァーグラウが 塗られていて、さらにその上からリペイントされている様に見える。

「dwc」の部分には、各メーカー刻印が入る事が多く、メーカー毎に異なるデザイ ンのマークが入れられている。

カムロック機構付き注入口

既に、詳細の説明はSSタイプの方でしてあるので、ここでは敢えて解説はしない が、実際の開閉は写真の穴の空いたレバーを持ち上げると簡単にする事が出来る。

なお、取っ手部分に、錆止めのプライマー塗料が見えているのに注意して欲しい。

カムロック機構付き注入口

SSタイプ同様に、蓋を開けるとホールドされる様になっていて、中には同じように 通気用のパイプが溶接で取り付けられている。

なお、このジェリカンの内側と蓋の裏側は、錆止め塗料がリペイントされている。

ディティール比較

左が国防軍用で右がSS用だが、メーカーが異なる為、取っ手や蓋等のディティール が微妙に異なっているのがわかる。

こうしてみると、SS用のジェリカンの方が溶接が綺麗に仕上がっているが、溶接工 の腕が良いのか、メーカーの差なのかは分からない(笑)。

蓋のディティールも結構異なっているが、これは恐らくメーカーの違いによる物と思 われる。

   
   
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24.Oct.1999 公開
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