ここでは戦争映画に登場する鉄道車両について紹介しています。
鉄道マニアMさんの「戦争映画に見る 鉄道車両」
  
はじめに
 
今回は戦争映画に出演した「鉄道車両」にスポットを当ててみました。戦車や装甲・非装甲 車両・軍装以上に普段は注目される事の少ない「鉄道車両」もマニアの目でチェックすると深くて楽しい世界のようです。
以下、Mさんに掲示板に書いて貰った原稿を再掲し、ちょっと注釈を付けさせてもらいまし た。
私自身が肝心の鉄道車両でHPに掲載出来る画像を持っていないので、折角の原稿を生かし 切れていないのが残念ですが、ちょっと変わった映画の見方をお楽しみ下さい。
  
戦争映画の鉄道車両(I)

「大脱走」
 
まず脱走した翌朝、みんなの待つNeustadtという駅で、到着する列車を牽引してい るのは78型という機関車です。編者注 1
これは帝政時代から製造(プロイセンのT18という形式、製造期間は1912〜1922 年)されていたもので、近距離の旅客輸送に活躍した機関車です。機関車には運転席の横にReichsadlerが付いています。編者注 2
後ろの客車にDB(Deutsche Bundesbahn)の大きなマークが付いていることが指摘されますが、私はむしろ、その客車が全て戦前(主に第一次大戦前)の客車であることを善しと したいです。編者注 3
ジェイムズ・コバーンがチャリンコから貨物列車に乗り換える時の機関車は、86型という 機関車(製造期間1928〜1943年頃)で、これは78型と違い、ドイツの鉄道統一後、統一規格で製造された機関車 (Einheitslokomotiven)の一種です。編者注 4
アッテンボロー以下が乗った列車が到着した駅で、Gestapoの私服の後ろに映ってい る大きな機関車は50型機関車(製造期間1939〜1943年)の準戦時型です。編 者注 5
撮影された当時は、これらの車両は全て現役だったとは思いますが、それでも適当に、その 辺の車両を使うのではなく、それなりの努力というか配慮が感じられます。

「戦略大空軍」
 
この映画で列車が出てくるのは、実は本人が鉄道マニアでもあったゲーリング(自邸カリー ンハルの屋根裏には鉄道模型が敷いてあった)がパドカレーに到着するシーンですが、残念ながら機関車はスペイン製と思われます。形式は判りません。但し、 ゲーリングはフランス製の客車なども利用しており(これもマニアだからか?)、こういうラテン的デザインの車両を使用した可能性は全く無くはないと思いま す。
その後ろの車両はFlakwagenと呼ばれる車両を再現したものでしょうが、機関砲が 御覧のようにドイツのものではなく、また、実際には、こうした高官の特別列車に繋がれたFlakwagenは、この映画のように単なる平台の貨車に対空砲 を載せたものではなく、特別に製造された4軸の大型の車両でした。編者注 6・7
ゲーリングの乗る客車は、戦後の急行用の客車を単に迷彩してAdlerを付けたものです が、当時の高官用の客車は流線形を取り入れ、戦後のデザインを先取りしたような形(Schuerzenwagenと呼ばれます)だったので、雰囲気は悪く 無いと思います。本当はもっと重厚で格好いいのですが。尚、ゲーリングの特別車両の何両かは、戦後アデナウアーが使用しており、現在その一両がボンに保存 されています。

投稿者:M  投稿日:2000年03月29日(水)

  
編者注 1:78型という機関車です。
 
機関車の前に付いているプレートの、最初の78は型式を表している。続く510はシリア ルナンバーだが、必ずしも機関車全体の
生産台数、生産時期を反映していない。
(これは、この機関車が帝政期からヴァイマール期まで製造され、国連管理下のSaarに 供給されたり、それがNS期に吸収されたりした為である。)
 
この画像は現在ニュルンベルクの交通博物館に保存されている車両で、Mzさんが撮影した 物を提供してくれました。
編者注 2:運転席の横にReichsadlerが付いています。
 
Reichsadler:国家鷲章。
これは当時の鉄道車両用アドラーの一例だが、正面に付けるタイプなので、鷲の頭も正面を 向いている。
この金属製の国家鷲章は制定されて間もなく戦争が始まり、全車両に付けられる事は無く、 多くの車両の国家鷲章はペイントによる物に変更された。

画像提供:M氏

編者注 3:客車にDB(Deutsche Bundesbahn)の大きなマークが
 
Deutsche Bundesbahn:ドイツ連邦鉄道。(旧西ドイツ)
この写真は私が1980年代にドイツに行った時に撮影した物で、客車にペイントされた” DB”のマークが面白くて撮った物です。
MANNHEIMの駅にて。
編者注 4:86 型という機関車
 
鉄道車両の統一規格化は軍用車両より早くから行われ、極めて合理的に生産されていた。こ れは機関車の設計開発が難しく、簡単に新型車両を生産しにくい事も関係していたと思われる。
 
但し、当時のドイツの財政状況もあり、輸送力のかなりの部分は
戦後まで帝政時代の機関車に負うこととなった。
(特に86型より小型の機関車はコストが高く為、古い機関車で十分だということで製造台 数が極めて少なかった。)
 
画像提供:M氏
編者注 5:大きな機関車は50型機関車
 
同じ50型の機関車だが、この写真の機関車は平時型で、戦後、東独で大幅な改造がなされ たもの。
(この3690-0号機は1941年末〜42年頃にHenschel& Sohn社で製造された旧1465号機で、50型が準戦時型になる直前のもので、戦後東独で改造される際に番号も換えられた。)
 
映画で写っているのは準戦時型と思われ、部品等は極力合理化されている。
 
ボイラーの前部両サイドに付いている鉄板(Windleitbleche)は、走行時に 風を利用して煙突から出る煙を上方へ向ける目的で付けられている。
 
画像提供:M氏
編者注 6:その後ろの車両はFlakwagenと呼ばれる車両を

Flakwagenは対空機関砲を装備した車両で、低空で飛来する地上攻撃機に対 抗する為の車両でしたが、制空権を失った西部戦線などでは、地上部隊同様鉄道も甚大な損害を被りました。
 
写真は装甲列車に連結されているFlakwagenが写っています。
ただしこれは、ゲーリング等の高官用列車に連結されていた物とは全く別の車両です。

編者注 7:こうした高官の特別列車
 
これも現在保存されている高官用特別列車の一両。
国家鷲章に似たデザインのマークがなかなか良い感じだ。
 
この客車は内装も凄く凝っていて、動く高級ホテルと言った感じである。
 
画像提供:M氏
  
戦争映画の鉄道車両(II)

「鷲は舞い下りた」
 
この映画は軍装も良く、冒頭のポーランドでのシーンでは、三号突撃砲の本物が出てくると いうことで評判ですが、この冒頭のシーンが鉄道マニアの目から見ると、逆に仇となっています。トラックや乗用車はオペル、ベンツ、フォードでいいのです が。編者注 8
機関車の形式はわかりませんが、ドイツ製でないのは確か。ポーランド風に見えないことも ないのですが・・・
運転室の横にはReichsadlerがついています。でも、このAdlerもなんとな くSS風に見えます。編者注 9
特に客車が問題で、窓が2段の北国、山岳地帯風です。おそらくフィンランドのものでしょ う。
Steiner達の乗っていた客車には、大きくDEUTSCHE REICHSBAHNと書いてありますが、こういう表記(大きくて、しかも全て大文字)は実物の写真では見たことがありません。編者注 10
全体として、このシーンは占領下のポーランドの駅という感じがせず、気のせいか極北とい う感じがします。

「ヒットラーを狙え」
 
以前見た時の印象は良かったのですが、鉄道マニアになってから見直してみると、最後の方 に出てくる機関車、客車は全てアウトでした。全て戦後のものです。現在のドイツでは日本と違い、機関車だけでなく、昔の客車や貨車まで動態保存しているの で、ちゃんとした車両を揃えるのは、可能な筈なのですが。自動車等はちゃんと当時のものを揃えているのに(但し、SAがdunkelgelbのサイドカー に乗っているのは頂けない)。編者注 11
非常に地味な映画ですが、ミュンヘン現地ロケだし、ビュルガーブロイケラーの雰囲気はよ く出ているし、突撃隊員もリアルな感じ(ネオ○○が混じっているのではないかと疑うほどです)だし、私の好きな映画の一つであることには変わりはありませ ん。

ドイツでは、特に最近、鉄道車両を製造時の姿に戻して保存する傾向が強いので、今 後の映画に期待したいと思います。個人的には流線形機関車01.10やディーゼル特急SVT137の登場を願っています。編者注 12・13
ファーザーランドの原作には、幻の超広軌鉄道が出てくるんですけどね・・・

投稿者:M 投稿日:2000年04月04日(火)

  
編者注 8:三号突撃砲の本物が出てくる・・・
 
この写真は劇中の物では無く東部戦線の実写ですが、映画はフィンランドでロケをして、博 物館に保存されていた三号突撃砲の本物が使用されました。
 
戦車は通常長距離移動する場合は鉄道輸送する事になっており、設計段階でも車幅は鉄道輸 送可能な範囲で決定されました。
 
話を映画に戻しますが、同シーンでは布を掛けられた戦車も貨車に積まれていましたが、シ ルエットでパンター戦車を連想させる演出はなかなか楽しい物でした。
編者注 9:このAdler もなんとなくSS風に見えます。
 
画像はSS用の国家鷲章ですが、編者注 1の画像の物と比べて羽に特徴があります。
 
国家鷲章は使用した年代、軍種や団体、アイテム毎に様々なデザインの物がありました。
編者注 10:大きくDEUTSCHE REICHSBAHNと書いてありますが、こういう表記(大きくて、しかも全て大文字)は実物の写真では見たことがありませ ん。

客車の画像で無くて申し訳ありませんが、写真左の貨車に白でDeutsche Reichsbahnと大文字と小文字で書かれています。(白の矢印部分)
これは東部戦線の傷病兵を後送するために使用された貨車の写真ですが、途中停車中のス ナップです。

編者注 11:但し、SAがdunkelgelbのサイドカーに乗っているの は
 
SA(Sturmabteilung)突撃隊、NSDAP(ナチ党)の集会警護等を目的 に発足した武力集団で、第一次大戦の陸軍エリート達による突撃部隊にちなんだ名称。NSDAPが政権をとる過程で重要な役割を果たしたが、レームの指揮下 勢力を拡大し、国防軍と反目したため1934年に国防軍との関係を考慮したヒトラーの命で、ヒムラーの親衛隊(SS)によって多数の幹部が粛正された。

dunkelgelb:ダークイエロー、1943年2月から使用された塗装色。
したがって、時代背景からすると、まだこの色のサイドカーは存在しないと言う事になりま す。
 
画像は突撃隊の行進風景。

編者注 12:個人的には流線形機関車01.10
 
高速走行を実現する為に開発された流線型のカヴァー付き機関車で、速度的には現在の車両 にも遜色は無かった。
ただし、全体に施されたカヴァーは整備上都合が悪かった為、戦後は外されて使用されてい た。
この車両も先頭に国家鷲章を付けているが、実際には1号車のみ付けられていたので、正確 なレストアとは言えない。
ただし1号車は高官用特別列車を引いていたので、このコンテンツの参考画像としては良い かもしれない。
 
画像提供:M氏
編者注 13:ディー ゼル特急SVT137の登場を願っています。
 
これも流線型を取り入れた高速鉄道車両で、当時のドイツ鉄道車両が極めて進んだ設計であ る事がわかる。
 
因みに、2000年1月〜11月適用ダイヤと1939年夏版の時刻表をもとに比較してみ ると、例えばBerlin-Hamburgの場合、現在一番速いICE(ドイツ版新幹線)で2時間17分。1939年当時、同じ区間の一番速いディーゼル 特急は2時間17分で同じ。
(Berlinの駅は当時はLehrter Bhfで、現在はZoologischer Gartenで違いますが、戦前の駅がHamburgに寄っている訳ではありません。次にBerlin-Dresdenの場合、現在の列車では一番早くて 1時間59分ですが、これが戦前は普通の特急で2時間半ながら、Henschel-Wegmann-Zugという特急列車(この列車は蒸気機関車が牽引) は1時間49分から1時間57分!(この場合のBerlinの駅は、戦前は有名なAnhalter Bhf、現在はOstbhfを起点にしています)
 
画像提供:M氏
  
  
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26.Apr.2000 公開
01.May.2000 更新
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